真っ赤。
 病室全体が、血に染まっていた。咲綾は全身血まみれだった。その真横に、黒い影。人型をした真っ黒い影が、咲綾と一緒に笑っている。
 むせ返るような血の匂い。

「ここみちゃん、危ない!」

 ドンっという音が聞こえて、あたしの目の前で光が弾けた。
 なにこれ!? 目の前に光のカベがある。そこにいくつも突き刺さる、血の色をした針のようなもの。

「ここみちゃん、下がって」
 透くんだ。いつの間にか手袋を外し、その手を複雑な形に組んでいる。
「昭、わかった」
 透くんが苦し気な表情でそう言った。
「これ、死神だ」

 ――死神……!?

 昭くんは無言で刀を抜くと、透くんの横に並んで立つ。

「あはは」

 咲綾は笑っていた。
 笑ったままぎこちなく体を動かして、ベッドの上に立つ。
 咲綾の体から点滴が外れた。
 ぼたぼたと液体が床に広がって、機械の警告音が響き渡った。

「まずい、人が来る」

 昭くんが舌打ちをした。
「あはは」
 咲綾が折れているはずの両腕を挙げた。風が舞う。病室の中なのに、まるで台風のような強い風が舞っている。
 点滴の台が倒れた。ベッドの横のつい立てが音を立ててなぎ倒される。
 次の瞬間――!

「うっ……」

 雷が落ちるような音と共に、光のカベにまた血の針が突き刺さる。
 透くんのうめき声。顔が真っ青だ。このカベ、もしかして透くんが……!?

「透、結界を解け」
「大丈夫」
「大丈夫じゃないから言ってる!」
「でも」
「いいから解け! 俺が何とかする!」

 言い捨てて、昭くんは床を蹴る。
 そのままの流れで咲綾に切りかかった。
「やめて……!」

 咲綾が切られる!
 窓を解き、飛び出そうとしたあたしを、透くんがぐっと押さえた。

 ――大丈夫。

 頭の中に透くんの声がひびく。
 え!?

 ――昭は咲綾ちゃんを切ったりしない。

 昭くんは刀を大きく振りかぶると、咲綾の真横、黒い影に切りかかった!
 ギンっとするどい音がして、刀が弾き返される。
「昭くん……!」
 反動で床に倒れ込んだ昭くんのひたいにも、汗がびっしりと浮かんでいた。

 咲綾はことりと首をかしげて、軽々とベッドの上から降りる。
「咲綾!」
「まずい……!」
 昭くんが立ち上がり、再度床を蹴って切りかかった。
 その刀をひらりと避けて、咲綾はベッドサイドの窓をがらりと開ける。

 風が吹きこむ。カーテンが大きく揺れる。
 咲綾は、窓に手をかける。

 ……え?
 ウソでしょ?

「咲綾……?」
 咲綾の足が窓わくにかかった。
 あたしの頭の中で、赤い光が弾ける。

「だめ、咲綾!」

 あたしは思い出した。そうだ、どうしてこんな大事なことに気づかなかったんだろう。

 咲綾は交通事故で死ぬんじゃない。昭くんに切り殺されたりもしない。
 咲綾は、咲綾の死に方は――!