あたしはなんとなくわかってしまった。

 昭くん、透くんに負担をかけたくないんだ。自分が霊を視る力を手に入れることで、透くんの体を守ろうとしてるんだ。

 なんだ、けっこういいやつじゃん。あたしはちょっとだけ反省する。

 石の力は、数百年に一回しか解放されないって言ってたっけ。
 きっと、昭くんはいろんなことを調べて、準備をして、石をさわろうとしてたんだろうな。それをぽっと出たあたしなんかがさわっちゃって。昭くんはきっと、すごく落ち込んだんじゃないかな。

 いきなりドロボウ呼ばわりされたことは、まだちょっと腹が立ってるけど。
 少しだけ昭くんに感じてた苦手意識がなくなった気がする。

「でも……すごいね。二人とも中学生なのに」
「そうか? そのあたりはよくわからないな。もうずっと前から、こういうことしかしてこなかったから」

 階段を上り切って、神社の境内につく。
 昭くんとの会話で少し体がほぐれたけど、やっぱりまだ怖いという感情は捨てきれない。

「よし、じゃあ、やるか」

 昭くんは周りを確かめるように見渡すと、ギターケースの中から刀を取り出した。
「この神社は、本来なら霊や化け物が入り込まない作りになっている」
「へ!? そうなの?」
 じゃあ、あたしが昨日出会ったクモみたいなやつは?
「最近どうもその力が弱まっている。聖域としての役割がうすれ、悪い気がたまりやすくなっている。昨日の化け物もそのせいだろうな」

 昭くんは、ぐるりと神社を見渡した。

「神社が聖域ではなくなった原因は、この神社にしばられた霊の影響のようだ。そこまではわかったんだが、それだけだ。問答無用で祓ってもいいが、本来聖域であるはずの神社にしばられているくらいだもの。正体を見てから判断したい」

 そう言うと、昭くんはあたしに道をゆずるように、一歩後ろに下がった。
 ……つまり、それをあたしに視ろ、ってことだよね?
 あたしはごくり、とのどを鳴らした。今回だけ。今回だけやれば、あとはもう視なくていいんだから。

「じゃ……やってみる」

 おそるおそる、手を組んだ。まずは狐の形に。手をひねって、窓を作る。
 この中を、視る……。
 足がふるえてきた。緊張して、のどがカラカラだ。
 やっぱり怖い。怖いよ……。

「大丈夫だ」

 昭くんが、淡々とした声でそう言った。

「俺がいる。何があってもお前を守る」

 いっそそっけないくらいの声色だった。きっと昭くんにとってそれが普通なんだろう。自然に発せられた言葉に、あたしは気持ちが楽になる。
 そうだ、昭くんはあのクモみたいなお化けも倒してくれた。きっと、何があっても大丈夫だ。

 あたしは覚悟を決めた。
 そして、そっと窓をのぞき込んだ――……。