いる。


 あたしは浅く息をつむいだ。
 気づかれちゃいけない。目を合わせちゃいけない。
 ふるえて、言うことを聞かない手を必死で動かして、自分の口を押える。

 むわりとした土のにおい。雨上がりのむせ返るような湿気。


 ずる、ずる、と足音がする。
 ぷん、と血のにおいがした。


 早く。
 早くどっかに行って!
 必死でいのりながら、あたしは奥歯を食いしばる。


 なんでこんなことになっちゃったんだろう。

 あたしはほんの数時間前、安うけあいをした自分自身をなぐってやりたくなった。