正面入り口から『こんにちはぁ』と女性の声が聞こえてきた為、私は来客の対応をする事に。
 席から立ち上がり伸びをした際に軽く乱れたスーツを直しながら正面入り口へと足早に向かうと、そこにいたのは20代くらいの女性が1人。

 背丈は私よりも10㎝以上は高いであろう長身で、体型はスラっと細くモデルさんみたい。そのうえ顔は小さく綺麗な二重瞼が特徴的。髪は顎ラインまでの長さで明るい茶色のゆるふわパーマが更に綺麗さをアップさせているように思える。
 目を引く美人。ただ若干メイクが濃い気がするけど、ウェディングドレスに合わせるなら全然良い。

 まじまじと見ながら、ふと疑問が浮かぶ。
 私……この人、どこかで見た事がある気がする。
気のせい? 
 思い出せないけれど対応はしないといけない。


「お待たせ致しました。オルコス・ド・エフティヒアへようこそ。(わたくし)、棗が承ります」

 カウンター越しにお客様と向かい合い丁寧に一礼するが、相手からは『どうも』と素っ気ない態度の返事だけが来た。
 そういうお客様も中にはいるからね、あまり気にしてはいないけども。
 しかしこの態度は、それだけじゃなかった。
 
李月(りつき)はいます?」

 こちらが用件を訊ねる前に彼女に言われ、一瞬唖然とした。
 前置きなしにいきなりそれ? いや、そもそもの疑問が()ぎる。


 “李月“って……誰?

 
 たぶんスタッフだったよな……と記憶を巡らせて、少ししてようやく思い出した。

 あ、桐葉さんか、と。