……やっと。やっと、思い出してくれた。
僕と彼女の思い出が。僕と彼女の共通の大好物が。僕の敬愛する母さんが。彼女を。
「『―――救ってくれた』」
お別れしてから5年もの時が経った。
それでも重なった僕たちの声。感情。
「もしかして、まだここにいたりするのかな」
『未練たらたらで離れられないよ。成仏のタイミングも見失った』
「情けない姿をいっぱい見せちゃったね。今もびしょびしょのどろどろだもん」
『情けなくはないけど、毎年風邪を引かないかめちゃくちゃ心配してたんだから』
「これからはちゃんと、めいっぱい綺麗にしてから来るね」
『楽しみにしてる』
お互いの姿は見えない。
お互いの姿は聞こえない。
それでも弾んでいるような、僕たちの会話。
―――僕だけが知っている、僕たちの奇跡。
雨粒たちはいつの間にか軽くなっていて。
僕たちを祝福するかのように光を伴いながら、優しく自然に恵みをもたらしていた。



