最後の航海


あの日、わたしは14歳の誕生日を迎えたばかりでございました。

怖い体験をした後でございましたが
マキシムさまがお側にいらっしゃったお陰で
キャビンで自分たちのスペースを見つけてからは
船の上だということも忘れて眠ることができたのでございます。

夕方、学校の宿題が終わり、下の階へ降りながら
家の前の通りが普段より騒がしいように思っていました。

いつもの時間を過ぎても、母だけでなく父までも家に戻ってこなかったので、
嫌な予感がして家の外へ出ました。

すると王宮の方から黒い煙が上がっているように見えました。

前の日の夜に両親が王宮内で何事かが起こるのではといった内容のことを
話していたのを聞いていたものでしたから、
煙を見たときにはそれを意味しているのではと
思ったのでございます。

近所の人たちも家の外へ出ていて、
リュカさまが亡くなられたのでないか、
といったことを話し合っているようでございました。

近くに従姉たちが住んでいましたので、
不安になって走って家に行ってみましたら、
そこにマキシムさまがいらっしゃったのでございます。

従姉たちに必要な物だけをまとめるようにおっしゃっているところでございました。

「いいところへ来たね、キミは確かマリィだね」

マキシムさまにお会いしたのはその時が初めてでございました。

マキシムさまはわたしと従姉たちを湾で待機している船に乗せるとおっしゃいました。

ただターミナルでは人で混雑しているので、
砂浜に降りてテンダーボートに乗り、
少し沖に出て大型船に乗り換えるということでございました。

テンダーボートでは荷物をたくさん積めないので
必要なものだけ準備しておくようにとおっしゃっていました。

「マリィ、スーツケースはあるかい?
 なるべく小さいほうがいいからね、家に戻って探しておいて
 お従姉さんたちのが終わったらキミの番だから」
 
わたしはなぜそんなことをするのかわかりませんでしたから、
まだ、もたもたしていたのでございます。

「ほら、こんな感じでキミの大切なものを
 スーツケースに入れて運ぶんだよ
 慌てなくていいよ、ゆっくりでいいから」

マキシムさまの口調は、
どんなに1分1秒を争う急な状況だったのではと思われたときでしたが、
穏やかに励ますようにお話しくださいました。

わたしは家に戻るとスーツケースを開き、
何を入れるべきかクローゼットを眺めていましたが、
両親もまだ帰ってきていないのですから、
戸惑うばかりでございました。

そこへ従姉たちとマキシムさまが戻ってこられたようでした。

マキシムさまがわたしの部屋まで上がってこられました。

わたしは両親のことを尋ねました。

それに何を入れていいかわからないことも、
不安で涙が止まらなくなっていたのでございます。

するとマキシムさまは、

「同じボートには乗られないかもしれないけど
 あとから必ず会えるから、大丈夫だよ」

そうおっしゃると従姉たちを部屋へ呼んで下さって、
ふたりもわたしの荷作りを手伝ってくれました。

砂浜へ降りていく間、
わたしたちと同じように両手に鞄を持った人々を見かけました。

車に乗せられるだけ家財を乗せて走っているのも見ました。

マキシムさまはときどき後ろを振り返って、
わたしたちははぐれないように砂浜へ降りて行ったのでございます。

砂浜にはわたしたち以外にもボートに乗る人が何人かいらっしゃいました。

そこからターミナルを見ましたら、
マキシムさまがおっしゃっていたように大勢の人々で混雑していたのでございます。

マキシムさまは静かにこうおっしゃいました。

「この国は無くなってしまうんだよ」

海からの風は穏やかで、波は耳を澄ませば聞き取れるほどの静かさでした。

沖まで出るのに小さなボートでも楽にいけそうに思えました。

マキシムさまは海や潮の様子をお読みになり、
出航するにはいまが最良の時だとお決めになったのではないでしょうか。