最後の航海


リビングルームはコーヒーの香りに包まれていた。

お気に入りのソファに座り、ひと息つく頃
マリィがカウンターの裏から
ウッドラタンのチェアを移動させてきて腰かけた。

「それではこれからお話しさせていただきますね」

フェリシティはエミリーに自分の隣に座ってと手招きした。

「はじめに、フェリシティさまがおっしゃった
 レオニーさまという方は
 マキシムさまの妹さんでございます」

その答えに誰もが驚きの表情で顔を見合わせていた。

おじいさまに妹さんがいたなんて!

フェリシティは心が躍り始めるのを止めることができなかった。

エリオットとクロエを見つめながら
レオニーさんにもわたしたちと同じ血が流れているなんて。

大切なわたしたちの叔母さま。

その人にはつい1カ月ほど前に会ったばかりだ。

気品があって物静かで
それでいて周りにいる人々を夢中にさせてしまう魅力的なおばあちゃまだった。

けれど、どうして今まで彼女のことを教えてくれなかったのだろう。

まるで存在を伏せていたみたい。

どうして? 

「フェリシティさま、新居に戻られるのがきっと楽しみになるでしょうね」

マリィはフェリシティこそが
今日までの悲しい歴史を優しく癒せる人物だと信じていた。

「レオニーさまのことをお知らせすることは
 今までタブーとされてきたのです」

「マリィはレオニーさんに会ったことあるの?」

「・・・ございます」

「それは、きっとわたしたちがまだ生まれてなかった頃になるのかな」

「そうですね、
 わたしもまだこちらにお仕えしていない時のことですからね」

マリィが口を開くたびに初めて聞くことばかりなので
誰もが口数が少なくなっていった。

「みなさまのご質問に答えていくよりも
 わたしの方からお話しを進めたほうがよさそうですね」

マリィはコーヒーのおかわりを勧めた。

エミリーが立ち上がると茶器の片づけを始めた。

フェリシティは隣で従兄妹たちと雑談をはじめていたアイザックの手を取って

「なんだか、もっと早く知りたかったわ」

「きっとマリィは君が今のように大人になってから
 話そうと思っていたんじゃないかな? 僕はそう思うよ」

「そうね・・・おじいさまはレオニーさんとは
 どのくらい前にお別れすることになったのかしら」

「これからマリィが話してくれるよ、ほら、キミのコーヒーがきたよ」