最後の航海


アットホームなディナーの後で
フェリシティとアイザックはマリィのプライベート・キャビンをノックした。

ドアを開けてくれたのはエミリーだった。

「エミリー、こんばんは
 あの、わたしたち、マリィに聞きたいことがあって来てみたの」

「まあ、なにかお困りなことがあったのですか?」

「いえ、そうじゃないのよ」

フェリシティはダイニングでのいきさつについて説明した。

するとそこへまた誰かがドアをノックした。

エリオットとクロエが恥ずかしそうに入ってきた。

「やあ、さっきパパが言ってたこと僕たちも聞きたいと思って、
 君たちのスイートへ行ってみたら、
 いなかったから、ここに来ているのかもと思って・・・」

マリィは今までこんなに自分のキャビンがにぎやかになったことがなかったので
とても喜んでいるようだった。

「わたしもいつかはお話しできると思っていました、
 ここでは狭いので、リビングに参りましょう、
 コーヒーを淹れる準備をしておきますね」

夜のデッキに出てみると、優しく潮風が髪を揺らした。

空を見上げると、静寂な星の小さな瞬きがあちらこちらに見ることができた。

高層ビル群の窓の明かりはまばらで、
翌朝までの束の間の休息を取っているかのようだった。

閑散とした道路にはロードサービスの車両が点検のためゆっくりと走っていた。

「いつ見てもステキな夜景ね、
 わたしたちの新しい家からも海が見えるそうよ」

「楽しみだね、早く帰ってみたいけど、
 ここの暮らしはきっと陸上では体験できないことばかりだろうね」

フェリシティとアイザックはデッキを一周散歩することにした。

静かだったデッキに乗務員がときどき出入りするようになった。

出航の準備が始まったのかもしれない。

少し先にリビングルームの明かりが見えてきたとき
エリオットがふたりに気が付いて大きな声で言った。

「対岸に花火が上がっているよ」

「まあ、きれい、行ってみましょうよ」

ふたりは手を繋いだまま走った。

「なんの花火かしら?」

「ほら、あそこに見えるかい? 外国の客船が出航していくよ」

「花火を上げて見送るのね」

「ボン・ボヤージュ!」

花火が上がるたびに見送りに来ている人々を明るく照らしていた。

みんな笑顔で手を振っていた。

数隻のタグボートが大型客船をエスコートし始めた。

そして汽笛を鳴らし穏やかな波の湾内から外洋へと旅立って行った。

「次の出航はわたしたちの番かもしれないわね」

「あと1時間後くらいかな?」

「ここの港は今夜で最後だと思うと寂しくなるよ」

誰かがひとりの乗務員を呼び止めて
カメラのシャッターを押してもらえないかと頼んだ。

誰もがこの一瞬を切り取って大切なアルバムに残したいと思える夜になった。