陽葵さまがレストランに戻られたとき、
マキシムさまが厨房にいらっしゃったそうでございます。
叔父さまは理佐子さまのお住まいへ行かれていて
レストランにはいらっしゃらなかったそうで、
なぜ、マキシムさまだけ残っていらっしゃるのかお聞きになったそうでございます。
マキシムさまは額や頬に小麦粉をつけたまま、
「亮一さんにここを使っていいかお聞きしたら、
何ができるか楽しみだとおっしゃったので
僕が得意なペイストリ―を作っているところだよ」
と、おっしゃったそうでございます。
「お礼に食べていただこうと思ってね、
船にいるみんなには好評なんだ」
陽葵さまもマキシムさまがお料理されるのを
意外に思われたそうでございましたが、
できあがりを楽しみにされていたそうでございます。
マキシムさまはお祖母さまっ子だったそうでございます。
お祖母さまがいつもおやつにパイやペイストリ―を
お作りになっていたそうで、
マキシムさまも自然とお手伝いをされるようになって
特にペイストリ―はお得意になったそうでございます。
翌日叔父さまが試食されましたときも、
太鼓判を押されて、
このままマキシムさまはレストランに残って手伝ってくれないかと
おっしゃったそうでございます。
マキシムさまが調理されたペイストリ―と
叔父さまのアラカルトなどを詰め合わせたお弁当を
陽葵さまがおかあさまとレオニーさまのところへ
お届けに行かれたり、
マキシムさまもご同行されることもあったそうでございます。
マキシムさまのおかあさまも
陽葵さまがいつも献身的に接してくださったので
少し体調も回復されたそうで、
「ステキなお嬢さんね、マキシム、
あなたたちはとてもお似合いだと思うわ」
と、おっしゃったそうでございます。
叔父さまのレストランへ、
大使館の職員の方がパスポートと航空券を届けてくださったので
おかあさまたちは出発の日を待つばかりとなったそうでございます。
お荷物は、おふたりでひとつのスーツケースと、
身の回り品だけが入るハンドバッグをお持ちになれることになったそうでございます。
最後の夜に陽葵さまのアパートで
静かにお別れをすることになったそうでございます。
おかあさまとレオニーさまは陽葵さまを抱きしめて
何度もお礼をおっしゃったそうでございます。
おふたりともが、
「マキシムのことよろしくね」
と、おっしゃったそうでございます。
最後におかあさまがマキシムさまを抱きしめてお別れをされたときに、
おかあさまの結婚指輪をマキシムさまの手の平にお乗せになったそうでございます。
お見送りは残念ながらできなかったそうでございます。
大使館の職員の方と、大使の奥さまが
アパートの駐車場までお迎えにいかれましたら、
打ち合わせ通りおふたり自身で乗車されることになっていたそうでございます。
叔父さまのレストランはお休みの日でございましたから、
理佐子さまと結婚式の準備のため、
お出かけされていたそうでございます。
マキシムさまと陽葵さまはスタッフ室にいらっしゃったそうでございます。
おかあさまたちの無事を祈りながら、
何か心の中にぽっかりとしたさみしさを感じていらっしゃったそうでございました。
マキシムさまが、これからのことをお聞きしたそうでございますが、
陽葵さまはすぐにはお答えできなかったそうでございます。
陽葵さまは・・・
