最後の航海


わたしと従姉たちは母を手伝って、
同乗されている方たちの生活のお手伝いを始めることになりました。

わたしの仕事は食堂で配膳や片付けをすることでございました。

もちろん勉強の時間もございました。

これまでのようにはいきませんでしたが、
何人か学校の先生もいらっしゃいましたので、
1日のうちの数時間は、食堂で授業を受けることができました。

はじめのうちはまだ船上の規則などが曖昧でしたので、
いろいろな面で工夫する必要がありましたが、
習慣が定着していくようになりますと、
自然な流れになっていきました。

そんなある日、
わたしたちを励まして助けてくださいましたマキシムさまに、
再会することができたのでございます。

わたしたちは屋根のある廊下まで出て、外を眺めることは許されていたのですが、
表のデッキに出るのは航行中だけに限られていたのでございます。

あるとき2週間ぐらいどこかの港近くに停泊していたことがありまして、
ずっと屋内で過ごすのも辛くなっていたのでございましたが、
やっと航海に出られることが決まり、喜んでいたときでございました。

デッキに出て深呼吸をしていたときだったと思いますが、

「マリィ、ここの生活にも慣れたみたいだね」

そこには、
あの日と同じマキシムさまと
お隣りには綺麗な黒髪の女性が立っていらっしゃいました。

「こちらは小川 陽葵さん、今日からここで生活することになったんだ、
 それでマリィ、キミに彼女のこれからのこと頼めるかな?」

それが奥さまと最初の出会いでございました。

これからお話しさせていただくことは、
マキシムさまと奥さまがご一緒のときにというよりは
キャビンに奥さまおひとりでいらっしゃったときや、
マキシムさまの書斎にお茶をお持ちしたときなどに
わたしにお話しくださったことです。

おふたりのそれぞれのお考えが、
ときには違うこともあったと思われますが、
そういったときには

「このことはマキシムには言わないでね」

「マリィ、いま言ったことは陽葵には黙っておいてくれよ」

などと、わたしにはおっしゃってこられましたが、
とても些細なことが多かったものでしたから
こちらとしては微笑ましくて笑いを堪えるのに大変なこともございました。

いまとなっては
おふたりのお側にいちばん長く居ることができましたこと、
とても幸せに思います。

けれど、最近になって、どうしてそんな大切なことを
言葉でお伝えしていなかったのかがとても心残りでございます。

奥さまの叔父さまのお墓参りは
奥さまとわたしとだけで参りますから、
そのときには奥さまに伝えようと思っているのでございます。