白亜の大型船の貨物室搬入口付近へ1台のリムジンが横付けされた。

後部座席からストライプのシャツにジーンズといった、
カジュアルな服装の青年が降りてきた。

ゆっくりと反対側の後部座席へ回ると、
彼と同い年の妻のためにドアを開けた。

リネンのリラックス感のあるワンピースの妻は車から降りると、
懐かしそうに船を見上げた。

彼らは新婚旅行を終えて帰ってきたところだった。

ふたりはむき出しの長いタラップを鬼ごっこするように乗船していった。

リムジンの助手席から妻付きのメイドらしき十代と思われる少女が、
わずかの荷物を手にしてタラップの方へ向かった。

リムジンはゆっくり向きをかえると貨物室へと姿を消した。

デッキまで上がってくると、
そこでは従兄妹のエリオットとクロエ、
数人の乗務員、使用人が出迎えてくれた。

エリオットとアイザックは握手を交わし、
クロエとフェリシティは抱き合って再会を喜んだ。

「これからどうぞよろしく」

「ステキな旦那さまね」

「またディナーのときにね」

フェリシティはみんなに手を振って、いちばんに会いたい人のところへ向かった。

フェリシティは広いリビングルームのドアの前に立つと、
アイザックの腕を取って
口元に人差し指を当ててしーっと言った。

遅いお茶の時間が終わり、マリィはひとりテーブルを片付けていた。

ふと背後に何か気配を感じて振り返る。

「マリィ、ただいま」

目の前にひと月ぶりに会うフェリシティが抱き着いてきた。

持っていたお盆の上の食器がカチャカチャと震えた。

「ご結婚おめでとうございます」

マリィはお盆をサービスワゴンに注意深く置くとフェリシティにきちんと向き直った。

そして新郎にも丁寧な挨拶をした。

新郎に会うのは今日が初めてだった。

マリィにはずっと心配していたことがあった。

それは孫のエイミーがフェリシティ付きのメイドになったばかりで、
新婚旅行に同行して
主人に迷惑をかけるようなことがあってはならないと思っていたからだ。

「大丈夫よ、マリィ」

そこへノックする音が聞こえてエイミーが入って来た。

「ねえ、エイミー、わたしたちいいお友達になれたわよね」

エイミーは話の内容がわからずただ立ち尽くしていた。

マリィは安心した表情でエイミーを見つめた。

出発の時には見られなかった自信にあふれる表情を見つけることができたからだ。

「ありがとうございます、フェリシティさま」

マリィは小さく合図するとエイミーはお辞儀をして部屋から出ていった。

「フェリシティさまアイザックさまお疲れのことでしょう」

マリィは残りの食器を素早くサービスワゴンに片付けると、

「お茶をお持ちしましょうか? 
 今日はトゥールーズさまのお客さまが先ほどまでいらっしゃったので、
 お茶の時間が遅くなってしまいまして」

フェリシティはアイザックにどうする?といったように小首をかしげた。

「それじゃディナーまで待っていましょうよ、
 おばあさまにお土産を持っていきたいから」

「左様でございますか、今日はずっとお部屋にいらっしゃいますよ」