♢一度会っただけで 結婚を決めた理由


 同じ学校へ向かう。一緒に行くわけではないが、部活の朝練のために、どうしても同じ時刻に出発することになる。仕方ないのだ。私の部活の顧問が同じ家に住んでいるのだから。しかも歩きで行ける距離なので、ほどよく距離をとって歩く。

 表向き別居しているふりをしているが、校長先生には担任に決まった後に
姉の婚約と同居の件を話したので、担任はこの人のままとなった。

 何も後ろめたいことはないのだが、同級生には知られたくないので黙っている。面倒くさいことは嫌いだ。

 早朝、誰もいなかったので、少し離れて歩きながら聞いてみた。
「なんで一回会っただけで婚約したの?」
 これは普通に気になる話だった。
 姉は細かなことに気を配らないので、好きになったら結婚すればいいという考えだが、結婚というものは、もっと慎重であるべきだと思う。若い私が言うのもなんだが、そんなに簡単に人生を決めていいの? 色々な思いをこの一言に託した。

「結婚しようと思って婚活していたわけだが――会ったその日にプロポーズされるとは思わなかったな」

「それはそうだね」
 同感だ。全くうちの姉は何を考えているのだろう。

「とりあえず、家族が欲しかったから、俺でいいなら結婚してほしいと思って」

 なに? とりあえず家族が欲しいから?
 安易すぎる人生の選択。この人、大丈夫だろうか?

「お姉ちゃん、全然うちにいないけど好きなの? 結婚してもあんな感じだと思うよ」

「好き……なのかな」

 何? この疑問形?
 大丈夫? うちの担任。

「だってずっと不在だよ。海外だとか演奏会ばかりで」

「結婚してもずっとそんな生活だったら……まぁ寂しいかな」

 まぁ寂しい? そんなレベルの話?

「俺、両親早く亡くしていて家族に憧れるっていうか……お母さんもお父さんもいて。もう、俺たち家族じゃないか」

 何その考え。生い立ちに同情こそするけれど、家族として私も認識されているとは。寂しがり屋か? こっちは年頃の女の子なのに、血のつながらない兄(予定)がいることが迷惑なのに。

「私は迷惑なんですけど」
 本音を言ってみた。

「そうか。ごめんな」
 先生は少し寂しそうな顔をした。罪悪感に苛まれる。

 あーだこーだ言っているうちに学校についた。
 この瞬間から先生と生徒だ。

 私は先生の洗濯物の下着にすらドキドキしていたのに
 家族っていいよなって思われていたなんて。むかつく。
 今日は思いっきり、ボールにぶつけるぞ!!