なんで?帰ったはずじゃ…っ
込み上げかけた悲鳴をぐっとこらえる。
触れるほど近くにあるその顔はまばたきひとつしない。
ドクンドクンと自分の鼓動が耳に響く。
「す、優…どうしたの?まだなにか──」
傾けられる整った顔。
やわらかいものが、しっとりと私の首すじに押しつけられた。
「んっ…」
熱に滲む、鈍い痛み。
突然の行為に、私はぎゅと目をつぶった。
「痕なんて付けられて…ほんと無防備」
「え…?」
優のつぶやきにおもわず目を開ければ、間髪入れずにおでこへとくちびるが落とされた。
「ねぇ、優…さっきからどうしたのっ」
なにがしたいのかさっぱりわからない。
怖くて、それでも少し甘くて。
普段からミステリアスなところがある優だけど、こんなに何ひとつ考えが見えないのは初めてだった。
祈るように瞳をのぞきこむ。
「くれは」
奥底には否定しようのない熱が揺れていた。
まるで支配されたように、逸らすことができなくなる。



