「たった一人。"大切な人"として紅羽のことを守りたい。たとえ……他のものを犠牲にしても」


「……」


「それの、なにがだめなの?」




じっと見つめられる。
目の前の顔が、静かに傾いた。




音もなく近づいたふたつの唇が重なる───




その寸前に、私は顔を背けた。



ここで流されてしまえば、私と冴にあるなにか大事な線を越えてしまいそうだったから。



冴は一瞬傷ついたような顔をした。
けどすぐに微笑みなおして、ほんの少し私から距離をとる。




「……やっぱそーだよな。ほんと、優しいな紅羽は。他の人間のことまで考えて……」




まるでひとりごとのように呟く冴。




「さ、冴……」


「わかったよ。あいつらにも話すよ、唐獅子様のこと」




諦めたような言葉に
私は「ほんと?」と声に力が入った。



それに冴はうなずく。



もしかして考え直してくれたのか。
なんて期待が湧くけど、目の前の冴からはなんの感情も読み取れなかった。



ただ能面のように笑っている。それだけ。