「じゃあ八尾、そろそろ行くね」
「あ、ちょっとまて紅羽」
「ん?」
手を振ろうとして止める。
ネットをぎゅっと握った八尾が優しげに私を見つめた。
「たまにはお前も遊びにこいよ。待ってるからさ」
「うん、今度連絡するね」
「ん。来るときは一人でな」
「え…?」
言葉の真意がわからず聞き返そうとすれば、そのあいだを割って入るように大きな背中が塞いだ。
「俺たちはもう行くから。部活頑張ってね、八尾」
やわらかな声。都の声。
日常的に聞いているものに、ほのかな圧を感じた気がした。
ぶらんと垂れ下がった手がすくわれ、長い指に絡め取られる。
振り向いた相貌は逆光でぼやけていた。
「帰ろう、紅羽」
返事をする間もなく手を引かれる。
慌てて見やった八尾の顔からは
表情が消えていた。



