どうにか空気を変えたくて、私はとっさに唐獅子様の話を持ちかけた。
都のお母さんは唐獅子様のことについて信じなかったという。
けどそれは単に、息子のおかしな冗談として、軽くあしらっただけなのだろう。
距離が近い身内ならではのやりとりだ。
なら第三者の私も同じことを話せば、聞く耳を持ってくれるかもしれない。
「──ってことなんだけどさ、都のお母さんはどう思う?」
なるべく明るく、好きな食べ物について話すみたいに言葉を続けた。
うんうんと穏やかなあいづちをしながら聞いてくれる都のお母さんだったけど
──まったく手応えがなかった。
「夢でも見たのよきっと。紅羽ちゃん頑張り屋さんだから」
「終わったらケーキでも食べましょう。昨日焼いたのよ」
「ほんとうにサラサラでいい匂い。髪の毛はどんなケアをしているの?」
その受け答えはどこかふわふわしている。
さらりとかわすように、話題を変えようとしてくる。
唐獅子様の話題を避けているように思えてくるほど、大事な部分は逸らされ、会話は平行線をたどるばかりだった。
もしかして都は、こんなふうにあしらわれるのを最初から知っていたから私の提案に対して複雑そうな顔をしていたのかもしれない。
だとしたら申し訳ないことをしてしまった。
それから散髪が終わるまでのあいだ、どうにか粘り続けてはみたものの、結局中身のない会話だけが滔々と流れていくだけだった。



