「冴、もーやめなよ」



渦を巻いていた思考に、優の声が響いた。
ハッとして視線を向ける。



「昔の人はもういない。おれたちはこの村に暮らしているただの高校生だ。考えたところで分かることなんて何もないよ」


「だけどよ…」


「贄を求めて山からおりてくる。それがたとえ土地神だろうと怖いものは怖いんだよ。おれは実際に見たからわかる。お前だってあんなの目の前にしたら逃げ出すさ。恐怖は畏れだって覆すんだ」


「……」


「それにおまえの言ってること、だいぶ決定的なところに返ってきてるよ。もし先人たちが向き合おうとして、"野蛮な唐獅子様"がタダで相手をしてくれると思う?そーいうことだろ。先人たちは手に負えない脅威に逃げながら、怯えながら、それでも贄を出してこの村をここまで繋いできたんじゃないの」



優はそこまで言うと静かに柵の外へと視線をやった。



「いろんな矛盾を抱えながらもここまで命が続いて、紅羽と出会って、いちばんそばにいられてる。この事実があればおれは十分だよ」



その声はどこかやさしく感じた。



畏れでも、恐れでもない、慈しみ。



大切なものだけを大切に抱きしめている姿。