あなたの落とした願いごと

「え、」


息が、止まるかと思った。



最初、滝口君が猿田彦大神の容姿を説明してくれた時も驚いた。


神様なのに、その顔は鼻が長くて人間離れしているなんて。


他の神々と異なる“顔”の特徴を持ち合わせた猿田彦と、“顔”だけが見えない病気と闘う私。


神様相手にこんな事を考えるのもおこがましいけれど、

でも、何処か共通点の様なものを感じてしまったんだ。


それに、その神様が道案内をした、みたいなくだりは難しかったけれど、滝口君が教えてくれた最後の部分は私にだって理解出来る。


もし、猿田彦大神が“安産”や“学業成就”の神様だった場合、私が1年以上に渡って切に願い続けてきたそれは叶う見込みがなかったかもしれない。


けれど、滝口神社に祀られている神は“みちひらき”のご利益がある。


「それなら、もしかしたら…」


最早、薬なんかよりも神様の力にしか頼れなくなってしまった私の心の声が漏れた。


「ああ。…お前の願った赤点がどうのってやつも、叶うかもな」


そして柔らかな声と共に、滝口君がこちらを向いた。


この人、いつからこんなに綺麗な声を出すようになったんだろう。


初対面の印象は最悪でまともに話すのも気が引けたのに、彼の態度はいつの間にか柔らかな物腰になっている。


じっと滝口君の顔を見つめると、茶色でビー玉みたいに輝く大きな二重瞼の目が見えた。