まだ梅雨明けまでは程遠く、どんよりとした雨雲が空いっぱいを覆い尽くした6月下旬。


根気と忍耐で期末試験を乗り切ってから数日が経った朝、私は久しぶりに滝口神社に顔を出した。


今日は、普段使っている正面の鳥居からではなく、横に設置された小さな鳥居から中に入る。


その理由は、試験期間は神社でお参りをしなかった為、久しぶりの来訪に宮司さんが何か言ってきたらどうしよう、と危惧したから。


普通の挨拶だけならまだしも、顔の見えない私は、声の微妙なトーンの違いでも相手の気分を推し量る事が出来てしまう。


それで、相手の中に隠していた感情まで知るのは少々気が引けてしまうから。



そのまま脇目も振らずに境内に入った私は、先客が居ない事を確認して二礼二拍手一礼をする。


「...神様」


思わず、声が零れた。


「もう、大きな願いごとはしません。だから、一瞬で良いから、」



私に、滝口君の笑顔を見せて下さい。



笑顔は人間が作る表情の中で1番綺麗で、泣きたくなる程美しいものだと、何かの本に書いてあった。


私もその表情は幾度となく作ってきたけれど、正しく出来ているかなんて知る由もない。


もし、神様がたった一度だけチャンスを与えてくれるのなら、

私は、密かに想いを寄せている彼の笑顔を見てみたいんだ。