あなたの落とした願いごと

「そうだよ、うちら席も前後なんだからね!これこそまさに運命ってやつでしょ!」


胸の辺りで綺麗に切り揃えられた黒髪に金色のハイライトを入れた彼女、エナこと富田 詩愛(とみた しえな)は、声を躍らせながら私の手を引いて席まで連れて行ってくれた。


8クラスあるのに偶然同じクラスでしかも席が前後だなんて、これは彼女が言うように運命かもしれない、なんて考えてしまう。


「エナ、春休み中にまた髪染めた?」


誘導されるがまま、中央の1番後ろの席に辿り着いた私は、ほぼ空に近いリュックを机の横に掛けながら彼女に話し掛けた。


「よく気付いたね!ちょっと明るくしただけなのに」


私がエナの顔を見ても何の表情も読み取れないけれど、少し目を凝らすと私の前の席に座った彼女の片眉が驚いた様に上がっているのが見て取れる。


「分かるに決まってるじゃん、いつも私がどこ見てると思ってるの」


「顔以外」


「その通り」


他の人には聞かれないように小さな声で答えたエナに、ごもっとも、と笑ってみせた。



私がエナと初めて出会ったのは、お互いがまだ幼稚園生の頃。


誰に対しても明るく接する彼女は男女問わず人気が高く、幼少期から何人もの同級生に囲まれているんだ。