あなたの落とした願いごと

ゆっくりと顔を上げると、鏡の中にはのっぺらぼうが映っていた。


清潔になったばかりの手を伸ばし、自分の顔に触れる。


この窪みは目、山みたいになっているのは鼻、ぷくりと膨らんでいるのは唇。


確かに感触はあるのに、それを見れないなんてどういう皮肉だろう。


「あんなに神様にお願いしてるのに…、」


私の信じる神様は、とことん意地悪だ。


はぁーあ、と、盛大にため息をついた私は、気を取り直してリビングへと足を向けた。



「おかえりー、お土産買ってくれた?」


「こんばんは、お邪魔してます」


リビングに入ると、既に夕飯を食べ始めていた兄と拓海君が声を掛けてくれた。


「うん、ちゃんとクッキー買えたよ」


もちろんお母さん達の分もね、と、よそられたご飯を自分の前に置きながら報告すると、ありがとう沙羅愛してる、と、シスコンの兄から愛の言葉を頂戴してしまった。


兄は地毛の黒髪をセンター分けしていて、家に居る時は何時ぞやの体育祭で着たらしいクラスTシャツを部屋着として使用している。


「そのクッキー僕も食べていい?」


最早この家族の一員とばかりに馴染んでいる拓海君は兄と同じ髪型をしているけれど、声が男にしては高い方だからすぐに見分けがつく。


病気の事を打ち明けてはいないけれど、今のところは大きな問題は生じていないんだ。