あなたの落とした願いごと

遠くからでもはっきり聞こえる二つの声はテンションさえ違うものの、同じ温かさを含んでいて。


「家に帰るまでが社会科見学だからね!真っ直ぐ帰るんだよ!」


続いて空良君が発したおふざけ感満載の台詞に、私の隣に立つエナが苦笑したのが分かる。



そうして男子達とは別の電車に乗り込んだ私達は、私の家の前で別れるまで他愛もない話をし続けていた。





✧**・.。*



「ただいまー」


エナと別れて玄関のドアを開けた瞬間、美味しそうな夕飯の匂いが鼻をくすぐった。


「おかえり。夕飯肉じゃがだから食べちゃいなさい」


リビングの方からはお母さんの声と、男性の楽しそうな笑い声が聞こえてくる。


玄関に置かれた靴に目をやると、母と兄、そして見慣れた男物のサンダルが置かれていた。


多分、リビングで笑っているのは兄と、兄の友達の拓海(たくみ)君だ。


そう答えを出した私は、


「手洗ったらそっち行くー!」


と声を張り上げ、先に洗面所の方へと向かって行った。



(今日、思ってた以上に楽しかったな。…最後にあんな事にならなければ、もっと楽しめたと思うけど)


石鹸できちんと手を洗った私は、傍に掛かったタオルで手を拭きながらそんな事を考える。


この病気が治るものだったら、こんな辛い思いをしなくて済んだかもしれないのに。