あなたの落とした願いごと

私の全てを知っている彼女は、ものの数秒で私がどんな精神状態に陥っているか把握してしまったのだろう。


「ねえ待って、今何が起こってんの…?」


空良君の困惑した声に、沙羅は人混みが苦手なの、と、エナがオブラートに包んだ説明をしてくれた。


「あー、」


彼女の説明で私が泣いていた理由がようやく理解出来たらしい滝口君が、息を吐いたのが聞こえた。




「じゃあ、此処で解散な」


その後、何とか落ち着いた私は全員と駅に向かい、班長としての役目を全うした滝口君がぶっきらぼうにそう言うのを聞いていた。


「俺らはあっちの線使うから。お疲れ」


帰り道、彼らは私が取り乱した事を忘れさせる勢いで沢山笑わせてくれた。


空良君がよく分からない冗談を言って派手に滑ったり、そんな彼に滝口君が悪口の総攻撃を仕掛けたり。


彼らのおかげで恐怖心が薄れ、今は再び顔を上げて歩けるようになった。


「2人共!」


遠ざかる二つの影に向かって、私は呼びかける。


「最後、ごめんなさい…。でも楽しかった、ありがとう!」


退勤ラッシュの人々にかき消されそうな彼らが、こちらを向いたのが分かった。


「大丈夫だよ、俺は人混み以上に神葉の事が怖いからー!って痛ぁ、殴んなよ馬鹿!」


「馬鹿はお前だろ」