そして、私が終始俯いたまま会計を終わらせた直後。
「ミナミ!」
ひっきりなしに聞こえてくる沢山の声をすり抜けるようにして、その美しいテノール音は私の鼓膜を震わせた。
「滝口、君」
私は弾かれたように顔を上げ、後ろを振り向く。
遠くからでも分かるレモン色の髪、校則通りに着用した制服、そして私を呼ぶ低い声。
こんなにも人が居る空間で、顔を見れなくても誰だか分かる唯一の人。
どうしても怖くてこちらに近づいて来る彼の顔は直視出来なかったけれど、それでも。
「買いたいの買ったか?ほら、行くぞ」
そっと私の背中を押してくれる彼の手が、大きくて温かい事だけは理解出来た。
「先にこっちに来て貰っちゃってごめん」
まだ堂々と顔を上げるのが怖くて若干下を向いたままの私は、エレベーターに向かう道筋で彼に謝った。
「あー、あの2人は一緒に居るっぽかったし、俺達が先に合流しといた方が話が早いと思って」
エレベーター前に並んでいる人は居なくて、私達は2人だけで大きな箱の中に足を踏み入れた。
私の感じていた恐怖なんてきっと微塵も感じていないだろうけれど、その言葉は私の目頭を熱くさせる。
「…ありがとう」
エレベーターの中は思ったよりも狭くて、少しでも気を緩ませると彼と身体が触れ合ってしまいそう。
もう、怖がらなくていいんだ。



