「優しいね沙羅、家族思いじゃん!うちも買おっかな」


何味がいいかな、と、机いっぱいに積まれたクッキーの箱を見る彼女のピンク色の髪が、さらさらと揺れる。


「…エナ」


そんな彼女の隣で商品を物色しながら、私は至って普通の声色で話し掛けた。


「ん?」


「私、今日大丈夫だった?」


「ん、…?」


商品の上を滑らせていた手が止まり、彼女は数秒間黙り込んだ。


あ、ちょっとタイミング間違えたかも。


「ほら、私皆の表情分かんないからさ、変な空気にしてなかったかなって」


私達の周りを纏う空気が瞬く間に重くなったのを感じ取った私は、顔の前で手を振って苦し紛れな言い訳をした。



もちろん、皆と居る時間は本当に楽しかったし最高の思い出が出来たと思った、それは嘘じゃない。


でも、もしも私が彼らの顔を見る事が出来たら、その気持ちはきっと今よりも計り知れない程大きくて、

皆と同じタイミングで、言葉なんて交わさなくても顔を見るだけで笑い合えたり、

たかが“写真”に恐怖を感じない生活が、送れたかもしれないから。



「…沙羅ちゃん?」


「はい、」


悶々と考えを巡らせているといきなりちゃん付けで名前が呼ばれ、思わず敬語で返事をしてしまった。


「1回しか言わないから良く聞いてね。…沙羅は心配性なだけで、沙羅が不安に思うような事なんて何にもないの」