あなたの落とした願いごと

彼の気分が上がっている所など一度も見た事がないのに、どうして空良君は断言できたのか。


そして、私の脳が導き出した答えは、彼が滝口神社の次期宮司となる存在だから、という事だった。


自分の将来に関わる場所に行けるなら、誰だって気分が上がるに決まっている。


私の兄の夢は自分でパン屋さんを開くことだから、いつもパン屋のバイトに行く時はこれ以上ない程にテンションが上がっている。


だから、滝口君の気分が上がるのも私の兄と同じ心理状態から来ているのでは、と思ったのだ。



「…別に、そんな事ないけど」


彼の返事はいつもみたいにぶっきらぼうだったけれど、どこか明るさを含んでいるようにも聞こえた。



「こぢんまりした神社…。でも、自然を感じられて良い場所だね」


それからすぐに石段を登り終えた私は、目の前に広がる光景を見てぽつりと感想を漏らした。


目の前にあるのは先程も私達を出迎えてくれた色あせた鳥居、参道の両脇には二つの狛犬が置かれていて、正面にはでんと拝殿が建っている。


この神社は滝口神社の何分の一という小ささだけれど、それでも由緒ある神社な事に変わりはない。


神社や寺は、周りを木々に囲まれているからか神聖な力のおかげなのか、中に入った瞬間に空気がひんやりとして今までの暑さが嘘のように感じられる。