あなたの落とした願いごと

「お饅頭も蕎麦も美味しかったね!満足したし、お腹いっぱいだよー」


「ねー。次は何処行くんだっけ?神社?」


あれから数時間が経ち、お饅頭屋さんを出た私達は暫く江戸時代の街並み巡りをして楽しみ、昼食として蕎麦を食べた。


蕎麦屋さんを出た直後、満足気に大きく伸びをしたのはエナで、


「ああ。少し休憩したら行くぞ」


私の質問に答える滝口君は、相変わらずの塩対応。


エナと空良君は感情をそのまま態度に出すから、今日という日を楽しんでいるのが伝わってくるけれど、滝口君は何をしても本当に声色が変わらない。


写真を撮った時も街巡りをした時も、のどごしの良い蕎麦を食べた時でさえ、彼は全てに興味がなさそうに一定の声色で会話をしていた。


もしかして、楽しめていないのかな。



少し休憩して歩みを進めたタイミングで、私はそっと空良君の方へと近寄って行った。


「ねえねえ、空良君」


小さく声を掛ければ、


「ん?どしたのー」


こちらを向いた彼の間延びした声が返ってきた。


私は声を潜め、張本人に聞かれないようにしながら尋ねる。


「滝口君、社会科見学楽しめてるよね…?」


班員全員が楽しめないと、こうして社会科見学を行う意味が無い。


まして彼は班長だから責務もあるだろうし、私達が無理をさせているかもしれない。