あなたの落とした願いごと

その後、数枚写真を撮ってくれた男の人はエナにスマホを返し、食事の邪魔になるといけないから、と、素早く奥へ戻って行ってしまった。



「記念写真撮れちゃったね!早速見てみようよ!」


わざわざ私達の為に集まってくれたスタッフの人達が去った後、エナがウキウキした様子でスマホのカメラロールを開いた。


「私も見たい!」


全く興味がなさそうにお饅頭を食べている滝口君の隣から、私はぐいっと身を乗り出した。


「ほら。…わー見て見て、お侍さん変顔してるんだけど!」


エナが私の方にスマホを差し出してくれて、それを見た私は、


「っ、…あははっ、本当だね」


やっぱり、どんなに目を凝らしてものっぺらぼうしか見えないという事実を嫌という程自覚しながら、笑った。



エナが“お侍さんが変顔をしている”とわざわざ口に出したのは、この先の私の発言と写真に矛盾がないように、という彼女なりの気配りのはず。


刀を腰に差したお侍さんも、饅頭を両手に持った店員さんも、班の皆も私の顔も、まるで全部に濃い靄がかかっているみたいだ。


「見てよ空良、沙羅の笑顔めっちゃ可愛くない?その隣の神葉君なんて、イケメン過ぎて倒れそうなんだけど」


そして、彼女はさらりと私の表情管理が出来ていた事を伝えてくれる。


エナが配慮してくれるのは嬉しかったけれど、どこか申し訳なくも感じた。