あなたの落とした願いごと

ごめん返事しちゃって、と可愛らしく謝るその姿からは、私をフォローしようとする優しい心が見え見えだ。


だって彼女は、滝口君が自分の方を向いたから返事をしただけにすぎないんだから。


「いや、俺が呼んだのはお前じゃなくてお前」


けれど、エナが私に向けて暗に伝えたメッセージに気付く様子もなく、彼はぬっと人差し指をエナの方へと向けた。


「そんなにお前って連呼したら誰の事言ってるか分かんないじゃん。そりゃ沙羅ちゃんだって間違えるよ」


そんな彼の感情の籠らない言葉を聞き、エナの隣に座っていた空良君が大袈裟に肩を竦めてみせる。


…まあ、確かに今までの滝口君は空良君以外の人を“お前”呼びしていたから、誰を呼んでいるのか分かりにくいと感じる場面があった事は否定出来ない。


「じゃあ何て呼べばいいわけ」


「我が愛しの詩愛様って呼びなさいよ」


滝口君がムスッとした様子で質問をした後、聞いているこちらが恥ずかしくなる様なあだ名で空良君がエナの事を呼んだから、


「ちょっと空良!」


これには流石のエナも恥ずかしくなったのか、手で顔を覆いながら首を振っていた。


表情が見えなくとも、今の彼女は純粋な乙女の様でとても可愛い。


「それは流石に無理。…じゃあ、富田ね」


そんな中、さっさとエナの呼び名を決めてしまった滝口君は、その流れで私の方を向いた。