満開の桜の花びらが頬を撫でる、4月上旬。


空には吸い込まれそうな程に清々しい青空が広がっていて、何処からか名も知らない鳥のさえずりが聞こえてくる。


歩く度に揺れる膝上のスカート、筆記用具以外何も入っていない黒のリュックサック。



通学路にある『滝口神社』という名前の大きな神社に立ち寄り、流れる様に二礼二拍手をして軽く目を瞑る。


登校前の日課となってしまったこのお参りは、果たしていつまで続くんだろう。



「…どうか私に、人の笑顔を、見せて下さい」



ねえ神様、聞こえてるんでしょう?


もし私が貴方の創った欠陥品なら、今からでも修正が出来るんじゃないですか?


返品や交換じゃなくても、せめてもの手直しくらいなら。



少しで良いの、一瞬でも構わない。


大切な家族の顔を、気の許せる友達の顔を、鏡に映る自分の顔を。


皆が幸せそうに目を細めて口角を上げる、あの眩しい程の笑顔を一度でいいから見てみたい、私の願いはただそれだけ。



だから、どうかお願いします───。



掠れた声は風と共に舞い上がり、大空へ向かって飛んでいく。






その先で私の願いを聞いているのは、

意地悪な神様。






ゆっくりと目を開け、一礼をした私はくるりと踵を返し、元来た道を真っ直ぐに戻っていった。