「えーっと、…」


それからしばらくして、親友である空良君に続いて壇上に立ったのは、私に対して皮肉しか言わない隣の席の有名人。


彼がこちらを向いただけで女子達は顔を覆い、イケメン過ぎて目も合わせられない、なんて興奮気味に囁きあっている。


この調子だと、きっと1学期が終わるまでに沢山の人から告白されるんだろうな。


悲しいかな、顔が分からない私には“イケメン”が何を指すのかもいまいち良く分からないのだけれど。



「滝口です。去年は8組で、テニス部に入ってます。趣味は…テニスです」


しかし。


たった数秒で終わってしまった彼の自己紹介は、熱烈なファン達によってほとんどが掻き消された。


「神葉君尊すぎる、テニス見れるなら何だってするよ!」


「何なら滝口神社通い詰めたい私!」


やはり滝口君の顔は“イケメン”に分類されるのか、女子達の声が輝いているのが伝わる。


彼と同じく人気者の空良君の自己紹介の時でさえ、こんなに歓声は上がらなかったよ。


(滝口君、凄い…)


先程皮肉を言われた事など完全に棚に上げた私は、思わず感嘆のため息をついてしまった。


よろしくお願いします。


そう言って軽く頭を下げ、再度顔を上げた彼の表情は、何も読み取ることが出来なかった。


そして、何人かを挟んでエナが教壇に立った後。


「成山沙羅です」


緊張しながらクラスメイトの前に立った私は、全員を見回しながら自己紹介を始めた。


「去年は6組で、部活はダンス部のマネージャーをやってます。好きな事は映画を観る事です」


私の方を見るクラスメイトの顔は、ものの見事に凹凸すらない。


(っ、…)


こうなる事は分かっていても、それでも。


私だけが全員を認知出来ない世界で、皆が私の事を知っているという不可解なこの状況は、ぞくりと、私の背中に鳥肌を立たせた。


そんな中でも、クラス内でとりわけ奇抜な髪色をしている滝口君の姿だけは認識出来て。


彼の顔が分からなくとも、その肌色の丸が真っ直ぐにこちらを向いているのが見えて何となく安心する。


「以上です。これからよろしくお願いします」


軽く礼をして席に戻る間、まばらな拍手が聞こえ続けていた。