その手紙は、昨夜から悩みながらしたためた、猿田彦大神への感謝の気持ち。

この奇跡みたいな出来事に関して、どうしても神様に想いを伝えたかったんだ。



「私、神様の創った欠陥品なんだと思ってた」


静かに話し始めた私の言葉を聞いた滝口君が、ぴたりと動きを止めたのが分かった。


「そりゃあ、今からでも“普通”に修正して欲しいと思う事もあったけど」


此処から見える空は透き通る程に青くて、

きっとその向こう側に居る神様は、優しい微笑みを称えて私達を見守っている。


「この病気が無かったら滝口君とも出会えなかったわけだから、…私、今凄く幸せ」


噛み締めるようにそう言うと、


「俺も」


滝口君がふわりと笑ったのが、その声色から伝わった。


「親父とのバトルでスマホ水没させちまったけど、結果オーライだからな」


それに続く言葉は、やっぱり私を笑わせてくれる。


彼は神社出禁解除の条件と引き換えに自身のスマホを壊してしまい、そのせいで文化祭当日は全く連絡がつかなかったのだ。


「願いが叶って、本当に良かった」


「猿田彦と俺らの努力を舐めんな」



笑いながら階段を降りていると、彼が不意に手を差し出してきた。


「ほい」


その手が意味しているのは、


「もう、迷子にならないように」


私達だけの、絆。



「ありがとう」



ありがとう、滝口君。

ありがとう、神様。



大好きなその手を握れば、彼も自らの手に力を込める。


「おう」



その声は、何よりも強くて逞しい。




寄り添うようにして歩く2人を見守るように、木々が風に揺れていた。