「今度は堂々と大きい鳥居から入れて良かったね」


「あんなに清々しい気持ちで親父の横通ったの、久しぶりだわ」



あの文化祭から1週間が経った、ある日の朝。


晴れて同じ想いを伝え合った私達は、今日も今日とて滝口神社にお参りに来ていた。



思い返すと、空き教室で滝口君の笑顔を見れた事は本当に神様が起こした奇跡だとしか思えない。


実際、あの後すぐに滝口君の顔は霧がかかった様にぼやけ始め、最終的にはいつもののっぺらぼうの顔が残ったから。


魔法みたいな時間が過ぎ去った後には少し残念な気持ちも残ったけれど、もう大丈夫。


何より、私達は正式に付き合う事が出来たし、

彼の満面の笑みは、今なお私の目に焼き付いているから。


あの後、劇の王子様役を”髪の毛を染め直したから”という身勝手な理由で空良君に押しつけた滝口君は、それからしばらく空き教室で私と2人きりの時を楽しんだけれど、

その際に何をしたかは、私達だけの秘密だ。


福田さんは相当なショックを受けたらしく最近まで学校を欠席していたけれど、昨日は元気そうな姿で登校していた。


もう、彼女が必要以上に滝口君に話しかける事もなくなり、とりあえずは一安心だ。


文化祭後にエナにこの事を報告をしたところ、彼女は空良君と手を取り合って大号泣。


因みに、急遽劇中でシンデレラと王子様役を務めた2人は本番中に皆の前で本当にキスをしたらしく、その武勇伝は今なお収まる事を知らない。