あなたの落とした願いごと

ついでに手も握っといてやるから、なんて付け加えてしまう彼は、

私の不安を全て吹き飛ばしてしまう彼は、天才だ。



「…、」


その言葉を聞いただけで、私の目からは新たに雨が降り出して。


「さすがに泣きすぎ」


滝口君が苦笑して、私の頬を親指で撫でる。


「俺らは釣り合ってるから、…だから、笑え」


彼の声が2人だけの教室に響いた、その瞬間だった。




「えっ」



私は、自分の役立たずな目が捉えた信じられない光景に、息を飲んだ。


洪水のように溢れていた涙は一瞬にして止まり、視界が明るく開ける。


「?」


何かを言おうと口を開く滝口君に、


「待って、滝口君。…さっきみたいに、笑って」


私は、興奮のあまり手を震わせながら、呼び掛けた。


「え、…マジ?」


何かを察したらしい滝口君の声が、私と完全にかち合った琥珀色の瞳が、信じられないと言いたげに、

でも、心から幸せそうに細められる。



神様、猿田彦大神。


貴方は、私の願いまでもを叶えてくれたんですね。



「信じられない…」


身体の底から湧き上がる、畏敬の念。

震える腕には再度鳥肌が立ち、瞬きをするのも憚られる。


人の創り出す表情を美しいと感じる、人生で初めての感情。


私の目は、


「見えてる?」


滝口君の満面の笑みを捉えていたんだ。