「お、王子…」


埃っぽい部屋に颯爽と現れたその人は後ろ手で扉を閉め、長い足を器用に使って傍に倒れていた机を蹴り飛ばした。


滝口君、劇の本番までに間に合ったんだ。

一瞬そんなことを考えてしまったけれど、


「あのさ、王子呼び止めろって何回言ったら分かんの?俺、お前が思ってるような奴じゃないんだよね」


真っ直ぐに福田さんだけに焦点を当てながら話している彼の声には何の感情も籠っていなくて、そのくせ彼の持つ雰囲気はここに居る誰よりも強く迫力のあるものだったから、

私は、完全に萎縮して息を潜めた。


「で、でもね」


「黙れよ」


福田さんの何かが、完全に彼の逆鱗に触れたんだ。


私の前では消え去っていた塩対応と毒舌の嵐が、今、彼の周りを吹き荒れている。


私は2人の顔が見えないけれど、きっと彼らは言葉に言い表せないような顔つきで向かい合っている。


「お前が俺に何度も告白したのは、まあ…度胸があるなとは思った」


滝口君は棒読みで淡々と言葉を紡いでいくから、その精一杯の褒め言葉ですら彼女をけなす材料になっているようにしか思えない。


「でもさ、顔とか家柄とか、そう言うのを理由に媚びられるのははっきり言って無理」


(うわあ、)


そしてすぐに、滝口君が話の核心を突いた。


あまりにもストレートすぎるその言葉に、私の腕に鳥肌が立つ。