「じゃあ、お前がどんな顔してるか教えてやるよ」


いきなり勿体ぶり始めた滝口君がわざとらしく咳払いをしたから、これは馬鹿にされる事間違いない。


「そんなの言わなくて良いよ」


「いや、馬鹿なお前でも分かる例えが見つかったから言う」


そんなやり取りをした後、彼はおもむろに目の前に咲く小さな花を指さした。


「あそこに咲いてる花、綺麗って思うだろ?」


訳が分からないまま、私はこくりと頷く。

花の美しさは、私の目でも当たり前に捉える事が出来る。



「…ミナミは、あれよりずっと綺麗で可愛い」



「っあ、」


滝口君、私に長年の願いを吐露出来たから頭のネジが吹き飛んだのかな。


彼に褒められたのは明らかで、でもそれをどんな感情で言ったのか理解出来ない。


(無理、心臓爆発しちゃいそう…!)


せめて何か読み取れれば、と、私は滝口君の顔をまじまじと見つめた。


「そんな見んなよ」


うるさい、これは全部貴方のせいなんだから。


でも、滝口君の顔は綺麗に穴が空いたみたいで、顔のパーツすら浮かび上がって来なかった。


「はーっ…」


遂に諦めた私は、目を擦りながら滝口君が指さした花の方へと視線を流した。


「俺の顔分かんなかったんだろ」


滝口君の声が可笑しそうに笑っていて、心の底で悔しさが首をもたげる。


「…でも、俺らの願いは絶対叶うから。だから、諦めんな」



滝口君の言葉は、それこそ藁をも掴むような根拠のないもので。


でも今の私達は、そうやって無理やりにでも信じていないと前に進めないんだ。



「うん。…滝口君も」


声を出すと無性に感傷的になって、また声に涙が混じってきた。


ごめんなさいって、謝っちゃいけない。

滝口君からの言葉を必死に思い出した私は、ありがとう、と、感謝の言葉を風に乗せた。


「おう」


大好きな滝口君の声はどこまでも澄んでいて、大きな安心感を与えてくれる。


それから、私達は太陽が真上に昇るまで、その場所を離れなかった。