そんな彼のおかげで、境内の裏のこの場所だけ時間がゆっくりと進んでいる気がする。


遅刻が確定している私達は、泣き止んだ後もまったりとその場に座っていた。

涼しげな風に髪の毛が揺れる。


「…此処の場所、花火大会の時に来ようと思ってた場所でさ」


不意に隣からそんな声が聞こえて、私は滝口君の方を向いた。


彼は、腰掛けたまま目の前に咲く小さな花の方を向いているようだった。


「此処からなら誰にも邪魔されずに花火を見れたから、結構気に入ってたんだ。…まあ、最後に来たのは8年前だし、この間も来れなかったけど」


滝口君が、太陽の光に眩しそうに目を細めたのが一瞬だけ見えた。


「…でも、今日お前と来れて良かった」


彼の言葉は光り輝き、私達の周りを回って天へ昇っていく。


(だああああ滝口君!?)


この人、いつからこんなに話すようになったの?


いつもの塩対応は一体何処に行ったんだ、さっきから心臓の鼓動がうるさすぎて集中出来ない。



「来年は、…此処で、花火見ような」



その瞬間、私の中の全細胞が、感動と興奮で気絶した。


「も、もちろん!」


私の声は完全に上ずっていて、滝口君に笑われる。


「そういや、ミナミは自分の顔見た事ないんだよな?」


そのままのノリで彼がそんな事を尋ねてきたから、私は不思議に思いながらも頷いた。