あなたの落とした願いごと

分かりきった絶望の未来へ向けて、


「私、…相貌失認症っていう病気を持ってるの。先天性で、人の顔が覚えられない病気」


私は、足を踏み出した。



「私、家族の顔も自分の顔ですら見た事がないの。パーツは何とか分かるんだけど、それを顔として認識が出来なくて…」


「自分の顔も…お前、自分がどんな顔してるか分かんないの?」


もっと侮辱の言葉が飛んで来ると覚悟していたのに、滝口君は思った以上に真剣に私の話を聞いているようで。


私は、言葉の代わりに頷いた。


「私、人の顔をのっぺらぼうみたいに捉えてるんだけど…。私が人混みが苦手だって、知ってるよね?あれも、小さい頃の夏祭りで迷子になった時、他の人の顔がお化けみたいに見えてパニックになった事が原因なの。それが未だにトラウマになってて、…」


小さい頃に神社で見た光景と社会科見学での光景、そしてこの間の夏祭りで迷子になった出来事が思い出され、私はぎゅっと目を瞑った。


滝口君とは一生分かり合えないこの感覚を一方的に話し続けてしまって、本当に申し訳なくなる。


再び謝ろうとした時、



「何も知らなくて、ごめん」



大きな手が私の肩を抱き寄せたかと思うと、滝口君の消え入りそうな声が私の鼓膜を震わせた。


「えっ、いや」


「ごめん。それを知ってれば、あの時すぐに探しに行ったのに」