あなたの落とした願いごと

これで大丈夫と言えるくらい精神が強かったら、私はどれだけ救われただろう。



「だって私、…今まで何回も、毎朝此処に来て神様にお願いしてるのに、1回も、滝口君の顔を見れた事無いんだからっ…!」



ああ、とうとう言ってしまった。


感情的になってしまった私は、片手で目を擦りながら勢い良く滝口君の方を向いた。

私は多分、酷い面をしているんだろうな。


「…え?」


困惑気味に聞き返す滝口君の片眉が上がったのが微かに見える。


でも、私が読み取れる彼の表情なんて大方そんなものだ。


「いや何言ってんのお前、いつも話す時は俺の顔見てんじゃん」


数秒後、私にそう言ってきた彼の声は笑っていて、でも、同時に震えていた。

多分、私が何を言ったか分からないから笑う事で解決しようとして、でも頭が追い付いていないんだ。


「うん、でも違うの。滝口君の顔は見てるんだけど、私は、…私は、人がどんな顔で表情をしてるのかが、ほとんど分からないの」


「は?」


好きな人に自分の病気について話す日が来るなんて、自らの醜態をさらけ出しているのとほぼ同じ。


でもこうなったのは自業自得だから、自分の尻は自分で拭かないと。


滝口君から偏見の目で見られて差別される未来は、すぐそこにある。

謝っても謝り足りない、本当にごめんなさい。



ここまで来たら、もう引き返す事は出来なかった。