あなたの落とした願いごと




「王子!お前、俺の詩愛と本気でキスしたらはっ倒すからな!覚悟しとけよ!」


「そんな事しねぇから、取り敢えず王子って呼ぶな」


放課後、早速ダンス部のマネージャーとしての仕事を放棄した私は、恒例の3人と共に劇中の壁紙を作る作業に没頭していた。


床に置かれたダンボールの向こう側では、滝口君と空良君が半分冗談ながらも火花を散らしている。


今回のシンデレラの劇は何度か役の交代があり、その中でも滝口君が王子様役、エナがシンデレラ役を務める場面があるんだ。


私は人前に出るのが得意ではないから裏方で、空良君も王子様役に抜擢されたものの、シンデレラ役は他の女子が担当するらしい。


「詩愛と席隣にならなかったしさ、もうどういう事よ?神葉ー、お前神頼み足りてないんじゃないの?」


あ"ーっ、と、空良君が大袈裟に髪を掻きむしって雄叫びをあげる。


「ちょ、」


“神頼み”という言葉に反応した私は、ダンボールに絵の具を塗る手を止めて顔をあげた。


今の滝口君には、そんな言葉を投げ掛けてはいけないのでは…。


しかし、


「お前の問題なんだから、俺が神頼みしても意味ねぇよ」


滝口君は、今までと全く変わらない塩対応でその話題を終わらせる。


「神葉はケチだよなぁ」


分かりやすく不貞腐れた様子の空良君を見ながら、私も意識的に口角を上げた。