あなたの落とした願いごと

深く息を吐いて下を向いたその瞬間、


「何溜め息ついてるの?僕と隣は嫌ですアピールしないでよ」


隣から、苦笑いを含んだ声が聞こえてきた。


「え?」


驚いて右隣を見ると、そこには滝口君…ではなく、


「ってか、文化祭まで後2週間なの早すぎだよね」


茶色の丸眼鏡を掛けた、田中君が座っていた。


「違う違う、田中君と隣は嫌じゃないよ!」


今は何の時間だっけ、と脳みそを活性化させつつ、私は首を振りながら弁解する。


「知ってる知ってる」


ノリの良い田中君は、あははと笑って黒板の方を向き直った。



そうだ、今は始業式が終わった後のHRの最中。


席替え後の席に移動して、9月中旬にある文化祭の準備についての説明を受けているんだっけ。


滝口君の事を考えていただけで、時間が流れるように過ぎていくよ。


「今日の放課後から、文化祭準備が本格的に出来るようになりました。大会を控えていない部活は、優先的に準備に取り組んで下さいね」


先生の声が、どこか遠くから聞こえてくる気がする。


夏休み中に少しは準備を進めてきたけれど、それでも半分程しか終わっていない。


また今日から、本腰を入れて準備しないとな。


夏休み中は滝口君と1度も作業出来なかったから、今回は一緒に出来ればいいな。


そんな事を頭の隅で考えながら、私は先生の話を聞き続けていた。