「どうしたらいいのこれ」


私の異変に気が付いたエナが、既に気持ち悪そうに溜め息をついている。


だって、滝口君の斜め後ろの席は、


「私、王子の斜め後ろの席だ!」


今まさに喜びの声をあげている、福田さんだったのだから。




「ねえ神葉、お前福田の斜め前の席だったよ」


「は?」


そのまま席替え前の席に座った私達は、席順表を見ずに机でうつ伏せになっていた滝口君に声を掛けた。


真っ先に衝撃の事実を伝えたのは空良君で、それに対して滝口君はガバッと起き上がる。


毎回執拗にアピールをしてくる彼女を面倒だと感じている彼は、福田さんにも聞こえてしまいそうなくらいに大きな溜め息をついた。


「席替えやり直せねぇの?」


誰にともなくそう呟く滝口君の様子は、いつもと何ら変わりがない。


良かった、もしかしたら私が心配し過ぎただけだったのかも。


3人が席替えの話で愚痴を言い続ける中、私は苦笑いを浮かべてそれに耳を傾ける。


俺、熊ちゃんに席替えやり直して貰えないか聞こうと思うんだよね。

絶対に聞き入って貰えないであろう要望を口にして意気込んでいる空良君の隣で、


「お前は席何処だったの」


不意に、滝口君が私の方を向いた。


「あ、」


滝口君の顔について私が分かる事は、とにかく女子が羨む程に肌に艶があるという事くらい。