「危ねぇな」


既に先に進んでいた彼は振り返り、左手をこちらに伸ばしてきた。


「ミナミは悪くない。こっちこそ、独りにさせて悪かった」


滝口君の声は、もういつも通りの温かさを含んでいて。


でも、その温もりがひび割れかけていると感じたのは、気のせいなのかな。


「ううん、」


小さな声を出しながら、私は滝口君の手を握り締める。



彼の手は、氷かと勘違いしてしまいそうな程に冷たかった。




「…花火大会、始まったな。見てくか?」


手を繋いで山車を後にしながら、滝口君がぽつりと呟いた。


花火大会の話題に触れているくせに、その顔は地面しか見ていない。


それに、ここは“見て行こう”の流れなのにわざわざ質問をしてくるという事は、彼もそんな気分ではないのだろう。


「ううん。帰ろう」


誰が、こんな結末を想定していただろうか。


私は病気があるからまだしも、普通なら花火大会を見ながら告白されて、満開の花火を背景にキス…までが少女漫画の定番の流れなのに。


「分かった」


滝口君の声は、沈んでいる様に思えた。



「今日はありがとう、楽しかった」


「俺も。じゃ、次は学校で」


「うん。おやすみ」


神社の鳥居を出た私達は、淡々とそんな会話をして別れた。


私達は、嘘を積み重ねていた。


確かに楽しかったけれど、それは迷子になる直前まで。