此処に居ると人の邪魔になると頭では分かっていても、身体が上手く動かない。


だって、道行く人は全員がこちらを向いているのに、

その顔は、何も無い真っ黒な空洞だったから。


「ひっ、!」


もう、悲鳴にも似ても似つかない声が私の口から溢れ出る。


この光景は、あまりにも8年前のあの日と酷似していた。



自分の背が瞬く間に縮んだ感覚がして、何人もの巨人が私の顔を覗き込む。


怖い、のっぺらぼうが怖い。

何も見えない、全然分からない。

私は、滝口君とはぐれた。



「やだっ、!」


誰かに再び足を踏まれ、よろけた私は屋台と木の間に逃げ込んだ。


8年前のあの日と現実が混同してぐちゃぐちゃになって、今自分が見ている景色がいつの頃のものなのか理解が出来ない。


のっぺらぼうだと思い込んでいた人々の顔はぐにゃりと歪み、時々一部のパーツだけが姿を現す。


嫌だ、こんなの人の顔じゃない。


私は一生、エナが言うような“イケメン”とか“美しい”とか、そんな感情を人の顔に対して感じる事はないんだろう。


だって、今の私の感情は、“醜い”とか“気持ちが悪い”とか、まるで妖怪に対して感じるそれなのだから。


「っ…!」


恐怖心が上限に達した私は、堪らず手で顔を覆ってその場に蹲った。



神様、この仕打ちは酷過ぎるよ。