あなたの落とした願いごと

「おねえちゃん、ありがとう!」


明るい声をあげた彼は、私の手からヨーヨーを受け取った。


笑って頷いた私は、その子の頭を優しく撫でて立ち上がる。


この後は滝口君が全てやってくれるから、これで私の役目は終わり。


滝口君が男の子を見つけた場所、名前、年齢を係の人に伝えている間、私は微笑ましい気持ちで2人を眺めていた。


8年前のあの日、私は自分を助けてくれた人や係の人に対して泣き叫んで酷い対応をとってしまったから、彼らはさぞかし迷惑に思っただろう。


なんて事を考えていると、


「お待たせ。助かった」


すぐに、滝口君がこちらに戻ってきた。


「ううん、大丈夫だよ」


彼は至って自然に私の手を取り、元来た道を戻り始める。


「空良から返信が来ねえから、花火大会は俺らだけで見よう。良い席知ってるから連れてってやるよ」


「あっ、うん!分かった…!」


滝口君の声はほんのりと温かくて、何だかデートのお誘いにしか聞こえない。


心の中で喜びを爆発させていると、いつの間にか視界が開け、少し前に見た山車が目の前に現れた。


山車の中では、未だに滝口君の弟達が夏祭りにぴったりで軽快な音楽を演奏している。


「あっ、祭囃子の…」


覚えたての単語をすぐに使いたがる幼子の如く口を開くと、


「ちゃんと覚えてんじゃん」


半分馬鹿にしているかの様に笑われた。