あなたの落とした願いごと

その姿からは、塩対応だの毒舌だのと散々言われている面影は微塵も感じられない。


「おかあさんがーっ…!」


提灯と屋台の光のおかげで、その子の頬に幾つもの涙の筋がある事は私にも理解出来る。


助けが来たと思ったのか、その子は滝口君の顔を見るなり号泣し始めた。


「母親とはぐれたのか…。ねえ君、お名前言える?何歳かな?…ありがとうね」


滝口君の質問にも答えられるあたり、この子は見かけによらずしっかりしているのかもしれない。


その子は小学校低学年くらいの背格好だけれど、8年前の私とは全く違うな、なんて、少し自虐的に考えてしまった。


「ミナミ、この子迷子センターに連れてっていい?すぐそこだから、花火大会には間に合うんだけど」


その時、その子を抱き上げた滝口君が真っ直ぐにこちらを見てきた。


「うん、もちろん」


私はその場に突っ立っていただけで全くの無力だし、そんな事を聞かなくてもいいのに。


でも、滝口君は満足そうに頷いた後、


「じゃあ、一緒に迷子センター行こうか。こう見えてお兄ちゃん、この神社の事何でも知ってるんだよ」


と、男の子を安心させる言葉を掛けながら、私に手を伸ばしてきた。


右手で男の子を抱え、左手で私と手を繋ぎながら歩く滝口君の背中は、誰よりも大きくて逞しい。


(あれ、)