あなたの落とした願いごと

案の定、というか分かりきった事だったけれど、滝口君の顔は砂嵐の様にモザイクがかかっていて、お参りをする前後で状況は何も変わっていなかった。


少しの落胆を胸にしまい、懐からスマホを取り出して空良君に連絡を始めた滝口君の方を見ていると。


「…あれ?」


滝口君の立っている奥の方で、甚平姿の男の子が独りでしゃがみ込んでいるのを見つけた。


遠目からでも、その子の肩が小刻みに震えているのが分かる。


(あの子、迷子かな?)


肩が震えているだけではなく、その子は両手で目の辺りをごしごしと擦っていた。


その姿は無性に、8年前の私と重なって。


思わず涙が込み上げてくるのを飲み込みながら、


「ねえ、滝口君」


既読つかねぇじゃん、なんて悪態をついている次期宮司さんの肩を、躊躇せずに叩いた。


「ん」


「あの子、どうしたんだろう」


滝口君の注意が、すぐに泣いている男の子に注がれる。


「親とはぐれたのかもな。行ってみるか」


こういう時、私と違ってすぐに結論を出してしまう所が本当に男らしい。


彼が出した手を自然と掴みながら、私達はその子の元へ駆け寄った。



「君、此処で何してるの?家族とはぐれちゃった?」


滝口君は男の子の元に辿り着くなりしゃがみ込み、自分の浴衣が汚れる事を気にする様子もなく目線を合わせて優しく話し掛けた。