あなたの落とした願いごと

デリカシーがないけれど、私は彼のそんな所もひっくるめて好きなんだ。


そんな掛け合いをしながら、私達は本殿の方へと向き直った。


打ち合わせもしていないのに、同じタイミングで二礼二拍手一礼をする。


私が神様に願う事はいつもと何ら変わらない。


これは至って真面目な、真剣なお願いなんだから。


「神様、」


声が漏れた事にも気付かず、私は心の中で神様に語り掛ける。


夏祭りの盛況ぶり、神様もご覧になっていますよね?

此処でお参りをしている私の姿も、きっと視界に入っていますよね?


しつこいかもしれない、聞き飽きたかもしれないけれど、でも。


横に居る彼の、滝口君の笑顔を見せて下さい。


お願い、お願い、お願い。


私から、唯一の希望を奪わないで下さい。



そう伝え終わっても、私は目を閉じたままだった。


これで目を開けて、何も変わらない事は分かっている。


横に居る滝口君の顔はどうせ見えなくて、狐のお面を見て話すしかない事も。


でも、それってやっぱり悲しいな…。






「あと少しで花火大会かな?」


「おう、空良達に連絡しとくよ。どっかその辺であいつらと落ち合おう」


お参りが終わった私達は、元来た道を戻りながらそんな会話をしていた。