「なあ」


りんご飴を食べて再び歩き始めて少し経った時、不意に滝口君が話し掛けてきた。


最初は斜め前を歩いていたのに、今は私の歩幅に合わせるように横に並んでくれている辺り、好きの度合いが増していく。


「ん?」


もう辺りは本格的に暗くなってきて、今では屋台や提灯の灯す光が太陽の代わりになっている。


そんな明かりに照らされた滝口君の顔は、見事なまでにのっぺらぼうを維持していた。


「お面、買いたいんだけど」


いきなりの提案は、滝口君の新しい一面を見せてくれる。


「良いよ!私も欲しい!」


あんなに塩対応だった彼がお面に興味を示すなんて思っていなくて、意図せずとも笑顔になる。


それに、私はお面に描かれたものは把握出来るから、これで滝口君を誰かと間違える確率は大幅に減るはず。


確かに、彼の髪は月夜に光り輝いて見分けがつきやすいけれど、それ以外で滝口君の事を見分けられる何かがあるのなら願ったり叶ったりだ。


「じゃ行こ。こっちにあるから」


滝口君は神社の構造と屋台の場所を把握しているのか、迷う様子もなく人混みに足を踏み入れた。


瞬間、前後左右から来る人の波に覆われる。


花火大会まで残り1時間程だからか、人もかなり多くなってきた。


一瞬身体がビクついたけれど、

滝口君と繋いだ手が、私は1人ではないと教えてくれる。