あなたの落とした願いごと

「うーん、…フランクフルトが美味しかった事かな?」


迷子になる直前、兄とフランクフルトを食べて、美味しいね、と感想を言い合った事は今でも覚えている。


正直に言うと、


「花火でも祭囃子でもなくて食い物選ぶあたり、ミナミらしくて超絶つまんな」


と、鼻で笑われた。


「つまんなくないよ、夏祭りの食べ物は特別感があって美味しかったんだから!」


ついついムキになって言い返すと、


「あ、あそこにあるけど食えば?」


と、フランクフルトの屋台を指さした滝口君は可笑しそうに肩を震わせる。


滝口君が笑うと、私まで幸せな気持ちになれるから不思議だ。


「今は要らない、けど…りんご飴、食べたい」


すかさず首を振って断ったものの、その拍子に反対側の屋台の暖簾に描かれたりんごの絵が見えてしまった。


滝口君を振り回しているみたいで申し訳ない気持ちもあるけれど、せっかく来たのだから楽しみたい気持ちが先行していて。


「分かった。行くか」


それでも私の望みをすんなりと受け入れ、優しく手を引いてくれる滝口君の紳士ぶりに、もう胸のときめきが止まらない。


滝口君、どうしてこんなに私に優しくしてくれるんだろう。


私は滝口君が好きだからいちいち反応してしまうけれど、彼は何を思っているのかな。